2022.05.17ものづくり
私が折り紙を創作する際の思考~後半~
折り紙の創作思考について
こんにちは。大阪紙器設計の原です。
前回は、折り紙を創作する際の考え方や方法についてお話しさせて頂きました。今回は実際の創作例を元に前回説明した流れを改めてご説明させていただきます。
実際の創作の流れ・鹿編
1 創作する題材を決める
今回は「鹿」を創作致します。元々、鹿は折り紙の題材として非常に人気があります。
私も創作折り紙を始める前は、他の方が創作された折り紙の鹿を書籍を見ながら折ってきました。
その事もありいつか挑戦をしたい題材でもあったというのが理由です。
スラっとした4本の足に加えて、鹿の最大の特徴である角の表現をどのように行うかがポイントになりそうです。
2 意匠を考える
次に既に存在している鹿の折り紙を改めて調べます。
著作権の関係上、ここでは紹介出来ませんが調べてみると色々な折り紙の鹿があるのが分かります。
全体的に簡易でシンプルな作品が多く、複雑な物はあまりないようです。
角の表現も、複雑な作品は確りと枝分かれした角が造形されているのですがシンプルな物は単なる1本の角で表現されているものが大半のようです。
同時にイラストや写真、作品類調べます。
イラストでは可愛らしい物やディフォルメした物も沢山あるのですが、「鹿 作品」等で調べると鹿が持つ気品のような雰囲気を纏った作品が多く見受けられました。
これらの情報を参考にしつつ、鹿の意匠を考えていきます。
他の人達が作っている折り紙の鹿との差別化を考えると、シンプルな造形は避けたい所です。
また鹿特有の品の様なものも表現できれば、より魅力的になりそうです。
漠然ではあるものの、創作の方向性は決まりましたので、ここからは実際に試作を重ねる作業に入っていきます。
3 試作品を作る~完成へ
試作を重ねていくうちに、幾つかの気づきを得る事が出来ました。
まず1つ目は鹿の角をリアルに表現しようとするとそれに比例して体もリアルにする必要がある事です。
当初は体はシンプルにし角だけリアルにすれば他作品との差別化が出来ると考えていました。
しかし実際に試作を行うと差別化は出来ているものの、見た目のバランスが悪く角に対して体が尻すぼみな印象を受けてしまいました。
前述の通り、折り紙の鹿作品はシンプルな造形の物が多いのですが、
シンプルである理由はこの辺りにあるのかもしれません。
2つ目は鹿の足は馬などの生き物に比べるとやや細いという事です。
私の作品のレパートリーには「象」や「馬」があります。
(象に関しましては過去のコラムで紹介しております)
それらに用いた構造を利用すれば鹿も作れるだろうと考えていたのですが、足が立派になり過ぎてしまい鹿というよりも「鹿の角が生えた馬」のようにも見えてしまいます。
ある意味力強さは感じられるので造形として破綻しているわけではないのですが、自身が当初求めていた「鹿特有の品の様なもの」の表現とは方向性が異なります。
それらの気づきを考慮しつつ、試作を重ねていき遂に作品が完成しました。
基本的にはシンプルな造形なのですが、角は枝分かれをさせています。
角の形状は実際の鹿の様にリアルにする事も出来るのですが、
体とのバランスを考えてあまり主張をさせないようにしました。
また、頭部を作る際に紙が少し余ったので耳も付けてみました。これは当初予定していた物ではなく偶然の産物ですが、こういった偶然こそが創作折り紙の面白さでもあります。
(実際の鹿の耳は角のやや後ろ気味に生えているのですが、折り紙的な纏まりの良さを優先しました)
足の造形は鹿の足の細さを表現する為、折るというよりも抓むような加工を行っています。
鹿の品を表現すると同時に、全体的に折り紙らしい凛とした作品に仕上がったと思います。
まとめ
実際の創作の流れ・鹿編は如何でしたか?
非常にニッチな趣味である創作折り紙の世界が、少しでも皆様に伝われば何よりです。
前回と今回の記事では
1 「創作する題材を決める」
2 「意匠を考える」
3 「試作品を作る~完成へ」
という3つの工程で折り紙を創作する思考を説明させて頂いたのですが、実はまだ次の工程があります。
それは、4「更なる研鑽」です
現時点で私が理想とする鹿という作品の完成を、今回は見る事が出来ました。
しかし、今後さらに良い鹿のアイデアが思い浮かぶかも知れません。また暫く経ってから作品を見返すと、その時には気づかなかった不満足な点が見つかる事も考えられます。
現状の作品に満足し続けるのではなく、より良い作品を探求し続ける事が創作活動で最も重要な事であり、面白さだと私は考えております。
これらの事は紙器設計を行う上でも肝要です。
お客様に提出する什器は、当然ながらその時点での最高の品質・クオリティが求められます。
しかし自身が成長した未来には、もっと良い構造や発想の紙器設計を行う事が出来る筈です。
1・2・3の工程の次である4「更なる研鑽」を、常に見据えて設計に臨む事がプロフェッショナルには求められます。