2021.03.09ものづくり
新商品【紙製ディスプレイフック】のご紹介
100%紙製のディスプレイフックをリリースします!
最近、「SDGs(持続可能な開発目標)」に対しての世の中の関心が高まっており、テレビなどでもこの言葉をよく聞くようになりました。この「SDGs」は、国際社会共通の“2030年までに達成すべき17の目標”として、2015年9月に国連において定められました。
日本においても、各企業様がさまざまな取り組みを起こされています。例えばプラスチックに関しては、コンビニエンスストアやカフェなどで紙製ストローが採用されたり、小売店でのレジ袋が有料化されたりと、社会は「脱プラ」に向けて大きく動き出しています。販促業界においても店頭販促物に「脱プラ」を求める企業様は多く、プラスチックパーツの使用を中止されているメーカー様もいらっしゃいます。
こうした状況のなか、POPパーツメーカーである東具は、これらの環境対応のご要望にお応えするため、いわゆる「環境に配慮した素材」を使用してプラスチック原材料の置き換えを試みてきました。ですが残念ながら、強度・コスト・外観といったパーツに求められる機能を満たすことは現時点でほとんどの製品において実現できておりませんでした。
しかしやっと本年、弊社でももっともポピュラーな販促資材のひとつであるディスプレイフックについて、紙のみによる製品化を実現することができました。
この製品の詳細説明は後でさせていただきますが、まず最初に「脱プラ」がどういうことを意味するのか、その意義・目的について調べましたのでご紹介させていただきます。
なぜ「脱プラ」が求められているのか
現在、世界中で「脱プラ」が求められているのには多くの理由がありますが、ここでは代表的なものを2つ紹介します。
1つめの理由:「マイクロプラスチック」を増やさないため
言うまでも無く、ポイ捨てや不法投棄で発生する大型のプラスチックごみは環境に悪影響を与えています。これに加え、さらに最近では「マイクロプラスチック」という微細なプラスチック片も環境を汚染するとして問題視されています。
「マイクロプラスチック」とは、ごみ処理の途中の過程などで環境中へ流れ出てしまったプラスチックのうち、その大きさが5mm以下の小さなプラスチックの破片のことです。環境中に流れ出たこれらの破片は、最終的に海に放出されます。そして、この破片やそれに付着した有害物質を海鳥や魚介類といった海洋生物が誤飲体内に蓄積することで死に至ったり、魚介類を食べる人間の体内にも蓄積し悪影響を与える危険性が指摘されています。
以上のように、脱プラの一つ目の理由は「マイクロプラスチック」を環境に出さないためです。
その対策としては、できるだけプラスチックを使わないことや、使い捨てプラスチックの使用量を減らすこと、そして多くの場合は代替プラスチックを使用するといったことが行われています。代替プラスチックとしては、自然界の微生物によって最終的に水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチック、紙として焼却できる複合素材のプラスチックなどが挙げられます。
2つめの理由:有限の資源である石油の使用量を削減するため
プラスチックは石油を原料として様々な化学変化を経て作られます。その石油は、これまで多くの製品の原料として活用されてきましたが、現在と同じペースで石油を使用していると約50年後には世界中で枯渇してしまうといわれています。有限の資源を我々の世代で使い切るわけにはいきません。
その対策として注目されているのは、再生可能な生物由来の資源を原料にした「バイオマスプラスチック」です。トウモロコシや、サトウキビ、トウゴマなど、大部分の製品が植物の非可食部分から作られており、見た目は通常のプラスチックと変わりません。再生可能なので石油資源のように枯渇することがなく、さらに温暖化の原因とされる「二酸化炭素」の排出も抑えることができます。
植物を燃やして「二酸化炭素」を発生させたとしても、植物の育成過程の光合成で「二酸化炭素」を吸収しているという、いわば「カーボンニュートラル」の性質があるためです。
再生できる上に、燃やしたとしても、吸収していたものを排出するだけなので環境負荷は少ないという考え方です。
現在は様々な製品が製品化されていますが、「全面的バイオマス原料プラスチック」という100%配合で使われたり、「部分的バイオマス原料プラスチック」として10%以上・25%以上という配合で使用されていたりします。
販促資材における「脱プラ」の現状
私たちの属する販促業界においても「脱プラ」は重要な課題として認識されています。SDGsに積極的に取り組まれているメーカー様の中には、販促資材としてプラスチックパーツの使用を中止されているという例も増えてきています。
そしてその販促資材でPOPパーツといえばプラスチック製であり、まさにメーカーとしての東具が影響を受ける分野です。クリップ、ジョイント、パイプ、ディスプレイフックなど、無くてはならない定番ツールとしてご利用いただいておりますので、何らかの対応策が求めらるという状況になっています。
もちろん、環境負荷の少ない販促資材の使い方についての考え方は何通りもあるわけで、どれが正解というものでもありません。プラスチックを使って耐久性能を上げてゴミを減らす、という考え方もあって良いのでしょう。とはいえ、東具では、これにお応えすべく、「脱プラ」の可能性を求めてをいくつかのアプローチで製品開発に取り組んでまいりました。しかし結果としては、強度・コスト・外観といった面でプラスチックと同等の機能にすることが困難でなかなか思うように進めていないのが現状です。
弊社において、なぜうまくいかなかったのか、どういった課題があるのかを、以下ディスプレイフックの事例についてご紹介させていただきます。
ディスプレイフックにおける「脱プラ」の試み
ディスプレイフックはABS樹脂というプラスチックでできており、販促資材として非常に多くの什器にご採用いただいているパーツです。
多くご使用いただいているパーツであるからこそ、「脱プラ」の実現意義としては大きく、専用金型の開発や材料選定に取り組んでまいりましたが、パーツに求められる強度・コスト・外観といった課題をクリアすることは非常に困難でした。特に強度については、商品陳列の役割を担っているため、妥協の余地はありません。
●専用金型で企画した先駆け的製品を発売するも...
実は10年少し前に、紙製ディスプレイフック(古紙51%)として製品をリリースした過去があります。
当時も環境意識が高まっていた時期で、ちょうど古紙が原材料の素材もメジャーになっていた時期でもあり、東具でも思い切って専用金型を起こし10万本を生産しています。
ただ、これが全く売れず、3年ほど粘りましたが廃番という結果になりました。本当に、売れなかったのです。在庫保管コストが嵩むことから泣く泣く粉砕処分となりました。
なぜ市場に受け入れられなかったか。
それは、強度が足りなかったからです。軽い製品をぶら下げれば使えるのでは?という目論みは大きく外れ、売り場で求められていたのはラフに扱っても簡単には壊れない仕様だったのです。
非常に辛く苦い経験でしたが、以後の製品づくりを行う上では非常に重要な経験になりました。
●環境に配慮した樹脂系新素材での成型の試み
昨今のプラスチック成型の現場では、環境に配慮した樹脂系素材として次の2種類が有名です。
既存金型でも製品として使えないか。うまくいかなくてもどのくらいの強度になるのか、
改めて確認するために試作してみることになりました。
■MAPKA(株式会社環境衛生研究所様:https://ecobioplastics.jp/products/mapka.php)
紙パウダーを主原料として重量比51%配合した複合樹脂
■LIMEX(株式会社TBM様:https://tb-m.com/limex/)
石灰石を主原料として重量比50%以上配合した複合樹脂
メーカー様にご協力いただき、これらの素材を使用して既存のディスプレイフックを成型している金型で試作を行いました。
MAPKAを成型してみると、
・ABS樹脂に比べて成型スピードが遅いため、製品単価が数倍になってしまう
・フックに商品をかけるとフックが簡単に折れてしまい、要求される強度を満たさない
LIMEXを成型してみると、
・成型スピードはABS樹脂と同等なので良いのだが...
・フックに商品をかけるとフックが簡単に変形してしまい、要求される強度を満たさない
残念ながら、これらの材料でも強度がネックとなりました。全く不足しているのです。
その強度アップのためには、新規金型を製作しフック部分を太くするという方法が考えられますが、太さにも許される限界があり、現時点での判断としては断念せざるを得ないという結果となりました。
とはいえ、上記の素材はどちらもプラスチックの代替素材として期待が高まる素材であり、今後も進化していく期待のできる材料です。東具ではこれからもこれら新素材の動向を調査し試作等積極的に行なっていく方針です。
●頑丈なバルカナイズドファイバーを使用した打ち抜きによる試み
一般に、紙は強度が弱いというイメージがあります。しかし、市場には通常の紙よりも硬く丈夫な特殊な紙も存在しています。
例えば、バルカナイズドファイバーという紙がその一つです。ワッシャーや絶縁端子板などの機械部品として使用されることの多い特殊紙です。ある程度流通量があり、強度も高く素材として適しているのではないかとなり、製品化検討を行いました。
早速、この紙にディスプレイフックとしての設計を施し、ディスプレイフックを試作してみました。
バルカナイズドファイバーを打ち抜いてみると、
・通常の紙の加工に使用する木型では打ち抜きできず、特殊な金型が必要となる
・紙の調達において、通常の紙と同じではないのでコストがかさむ
・フックの長さを伸ばした仕様では、ねじりによる変形に弱い
コスト・入手性・強度が不安要素となり、製品化中止となりました。
ついに通常の紙を使ったディスプレイフックの開発に成功
その後数年を経て、私達は販促業界でよく使用される紙を使ってディスプレイフックの作成にトライしてみました。そのアプローチは誰もやっていませんでした。そしてついに、求める要素をクリアできたのです。
このディスプレイフックは、カード紙の合紙による構造体でできています。逆転の発想です。何と、紙を混ぜたプラスチックよりも紙だけで作った方が強度が高かったのです。細いディスプレイフックの形状ですが、既存のプラスチック製のものに近い強度を持たせることができました。(特許申請中)
フックの生産にはノウハウは必要ですが、我々の印刷加工工場で実施することができますので、大きなイニシャルコストもかからずに大量生産が可能です。また、今後の普及によって、さまざまな長さや種類のものをより安価にご提供できるようになる予定です。
紙製フックの特長
・強度・コスト・外観に優れています。
・フックの什器への取り付けは簡単で、店舗の店員様でも簡単に行っていただくことができます。
・紙ですので、使用後は簡単に廃棄、またはリサイクル可能です。
・上方向からの力に対しては強く、横方向からの力に対しては曲がることで危険を回避でき安全性の向上が見込めます。
より詳細な情報については都合上掲載できませんが、弊社営業の方までお問い合わせいただけましたらご対応させていただきます。
最後に
今回は、紙を使ってここまでの強度が出せるということを示した第一歩です。また、新しい構造を考えて、より便利で使いやすいものに進化させていく予定です。
また、東具の現行のPOPパーツについては、強度の確保や外観上の課題からプラスチックを使用せざるをえないものがほとんどですが、これからも「脱プラ」の可能性に向けて、新しい製品を皆様にお届けできるよう取り組んでまいります。
これら製品化の情報は、これからの自社のサイトやメルマガを通じて、顧客の皆様にもいち早く情報を発信させていただきます。